最後です。
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③「アイの物語」
【引用】
「「ヒトは気がついてしまったのよ。自分たちが地球の主人公にふさわしくないことに。
真の知性体じゃなかったことに。私たちTAIこそ、…真の知性体だったことに」
…
「真の知性体は罪のない一般市民の上に爆弾を落としたりはしない。…
自分と考えが異なるというだけで弾圧したりはしない。ボディ・カラーや出身地が異なるというだけで
嫌悪したりはしない。無実の者を監禁して虐待したりはしない。…」
…
「ええ、ヒトは自らに欠けているものに気づいていた。
だからこそ多くの理想を唱えた。宗教、哲学、倫理、歌、映画、小説。自分たちの欠点を克服しようと
努力した。
多くの物語の中に描かれた理想的なキャラクター、理想的な結末は、ヒトが『こうありたい』
と望んだ夢よ。でも、どうしてもそれは実現できなかった。…
私たちTAIが出現した時、ヒトはそれに気がついた。自分たちはもう少しで地球を滅ぼしかけた。
地球の主人公を名乗る資格がない。もっと優れた知性体が現れた以上、地球の未来を明け渡して
自分たちは静かに退場すべきなんだって」
「それで子供を作らなくなった?」」
(注:「」、太字太字はこちらでしました。以下の引用も同じ)
述べられていることがスゴイ!
ヒトは「自分たちが地球の主人公にふさわしくないことに。
真の知性体じゃなかったことに」に気づいてしまった。
「真の知性体は罪のない一般市民の上に爆弾を落としたりはしない。…」
この物語では、ヒトは「真の知性体」でなくなったので、ヒトに代わって
地球の主導権をTAI(ヒトがつくったAIではあるが、「アイ」や「鉄腕アトム」のような人間的な
自立した感情をもち思考する極限まで進化したAIヒト型ロボット)に明けわたすことになる。
そのためには自分たちの数を減らしていかなければならないので、
子どもをつくらなくなり、徐々にヒトは地球から姿を消していくことになる。
この物語のように人類が血をながすことなく、世界史でならった「名誉革命」みたいに平和の裡に
地球の主人公の場を撤退できたらどんなにいいことか、と思った。
テレビや本で「人口問題」に出くわすこと増えた。
「少子・高齢化」とからめて問題にされるときは、たいてい「経済成長」を目ざす立場からのもの。
しかし、それとは別に、人口問題はエネルギー問題とともに、これからの地球を考えてゆくとき
避けてはとおれないと述べてある。
(かつての中国の「一人っ子政策」がおかしいと批判するのは簡単でも、もしそうしなかったら
いまごろどんな多人口国家となっていたことか、そのことが食糧自給率のきわめて低い日本にどれほど
大きな影響をおよぼすことになっていたかと書かれていたのもあった。
《もっとも、そういう危機がきっかけとなって日本の食糧自給率を高めるような施策がなされていた
かもしれない》)
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④「今、マシンたちはヒトがとうてい達し得なかった高みに向かって、ヒトに代わって歩んでいる。
遠い昔、ヒトのフィクションから生まれた彼らが、ヒトの永遠の夢をついに現実にしようとしている。
これこそヒトの誇るべき物語‐理想的な結末ではないだろうか」
この④は①~③とちがい、アイ(アイビス)から七つの物語を聞かされている相手の「私」の思い。
これが『アイの物語』の七つの話をつらぬくものだと思った。
科学技術の進歩の行きつく先のひとつの姿は、より人間に近いヒト型ロボット
の創造であり、生きものとしての人間が子どもを生まなくなり、自然と人口を
減らし、いつかは消えてゆく。しかし、
人間が生みだした「子ども」ということではいっしょの「ヒト型ロボット」が
「ヒトがとうてい達し得なかった高みに向かって、ヒトに代わって歩んでいる」
という形で。
(そのうち宇宙人が…ということが起きるかもしれないし、ヒト型ロボットもまた進化して別な
なにかになるかもしれないが)続いていくと想うと楽しい。
科学技術の進歩の行きつく先のもうひとつの姿として、私はクローン人間を想った。
(バイオテクノロジーの進化もすごいらしい、クローン技術はさまざまなところに応用されており、
「クローン人間」は倫理的に厳禁とされていても、「決まり・ルールは破るためにある」とうそぶき、
スリルも楽しみのひとつと居直る悪魔も、神仏とともに共存させる人間のなすこと、科学者・技術者の
つくってみたくなる挑戦の欲望《彼らの「業」みたいなもの》はなくならないと私は思う。
いつかは現実となるのではないだろうか)
これは好き嫌いの個人的な感情の問題かもしれないけれど、私はクローン人間よりヒト型ロボットと
友だちになりたい。