「何もしないことの罪」
衝撃をうけた。
(法律的には「不作為の罪」という。が、ここでは法律的にどうのこうのというのではありません)
NHK敗戦ドラマ『しかたなかったと言うてはいかんのです』に出た言葉。
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番組のホームぺージにはこうあった。
(グーグルより)
【引用】
「“何もしなかった罪というのもあるのではないか・・・”
太平洋戦争末期に行われた「生体解剖」。
命を救うはずの医師が犯した恐ろしい罪とその裏に隠された真相。
死刑判決を受けて自分自身と向き合う医師と、その判決に異議を唱え、公正な裁きを求めて
奔走する妻。
苦悩の果てにたどりついたありのままの真実とはいったい何なのか?
人間の狂気と正気を描き出すヒューマンサスペンス!」
[あらすじ」
上司である教授の石田(鶴見辰吾)の執刀による「生体解剖」を無理やり
手つだわされた。
「生体解剖」手術のむごさを嫌悪し、鳥居は手術の取りやめを石田に進言するが
きいてもらえず、しかたなく…命令にしたがう。
(解剖されるのはの捕虜となったB29爆撃機のアメリカ兵。命令者は軍。
軍の命令は天皇陛下の命令で、だれも逆らえない。
軍命をうけた石田教授は、①ぜったいの服従義務 ②アメリカ兵は日本全国をすさまじい空爆により
多くの無辜の民を殺戮した「鬼畜米英」だと自分を納得させ、「生体解剖」手術に鳥居を巻きこむ)
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敗戦。
鳥居は戦争犯罪人として逮捕され、裁判で石田教授らとともに死刑判決となった。
(石田に対してのおぞましい手術をやめてくださいという消極的な抵抗は、死刑の減刑理由には
されなかった。
石田は自分のしたことは死刑からのがれないと諦めたのか、獄中で自殺。
石田亡きあと、鳥居は「生体解剖」手術関係者の医師側ナンバー2の責任者《助教授》ということで
ますます死刑という極刑からのがれ難くなった)
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ある日のこと。
鳥居は、彼と同じく死刑を宣告され、その日(死刑執行)をおだやかに待っている
陸軍中将だった岡島孝輔(中原丈雄)にあう。
岡島は、自身は極刑にあたいするような罪を直接はしていなくとも、自らのぞんで
判決をうけいれているかのような穏やかな表情をしているのをみて不思議に思った
鳥居は彼にたずねた。
(以下は意訳。そういう意味の問答だったということで、正確なセリフではありません)
「どうして自分が犯した罪でもないのに責任をとられるのですか」
「それが立場(中将)というものだからです。上官としての自分には
何もしないことの罪があると思うのです」
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岡島の言葉は強いショックを与え、鳥居はますます沈みこみ考えるようになった。
あるときついに、自分は石田教授におぞましい手術をやめるよう言っただけ、
そういう消極的な反抗意思をしめしたにすぎなかっただけと考え、判決に納得し、
死刑を受けいれることにした。
そして遺書を書く。
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一方で、小さな子どもたち(姉と弟)を田舎(福岡)に帰って育てながら、夫の助命・
彼女を支える家族や知人たち。
あるときの面会では、鳥居はすでに遺書を書く心境になっていた。
そして、その切実な胸のうちを妻に語った。
夫のかみしめるように発する一語いちごを、あふれる涙をこらえて静かに聴き、
妻は言う。
(これも意訳です)
「あなたはご自分の心、信念に忠実に、ということで気がすむかもしれませんが、
のこされる私たち家族のことも考えてください…」
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最後。
妻の訴えを真剣にきいて労をとってくれた戦犯法廷の通訳(若村磨由美)など
おおくの人の支えによって死刑はまぬがれそうな状況がうまれていた。
(にもかかわらず、かたくなに減刑嘆願書を書こうとはしない鳥居)
それを書く決意をさせたのは、おそらく最後と思って妻が子どもたちをつれて
面会にいったとき(弟はまだ幼児。無邪気そのものでいまの深刻切実な事態はまるでわからない、
姉はもうわかる)、お姉ちゃんがなんども叫ぶ「おとうさーん!」だった。
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あの戦犯法廷の理念が最後のさいごまでつらぬき通されていれば(朝鮮戦争が勃発し
アメリカにいいなりの政治屋が必要とされなかったら)鳥居のように巣鴨プリズンに収容させ
られていた安倍の祖父・岸信介、中曽根たちが総理になる、政権をにぎるという
理不尽はぜったいに起きなかったに違いない。
一方では、岡島中将のように「何もしないことの罪」にこだわった潔癖清廉な人
あの時代と社会に生きていたなら自分はどうしただろう?
(命令されたから)「しかたなかった」(みんなそうだったから)「しかたなかった」
と言っただろう。
いまの時代と社会は戦前とはちがうといっても、人間のことだから「想定外」を
起こす。
でも、人間のことだから「想定」できる。
そのとき「しかたなかったと言うてはいかんのです」と言えるような生きかたを
こんな歳になってもしたい。
〈オマケ〉
番組の最後でふたたび「しかたなかったと言うてはいかんのです」と聞いたとき、ツレとチラっと
視線があった。
彼女の眼は、「この言葉はなにもドラマのような深刻なことだけでなく、日常の生活でもだいじに
しなければならないのでは…」といっている気がし、ドキンとした。