今日で終わりです。
(⑯から⑱まで)
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「⑯〈痴呆を抱えて暮らす困難〉
「わたし」が壊れる
→単にこれまでできていたことができなくなったと感じるだけではなく、
「わたし」が壊れていく、と感じられる
→(「わたし」が指揮者なのに「奏者をまときれない感じ」)
…
認知の障害、情動反応性の保持
自分が引き起こしたつまずきに自己の責任で対処することの困難という認知レベルの障害と、
自分が遭遇している事態を危機と感じ取り、さらには適切に対処できないことに不安や焦燥を抱く
という情動反応性の保持との間のズレが存在する。
→周辺症状を生む源になる
⑰〈妄想の成り立ち〉
新たな生き方への強制
人間以外の動物なら、…ほぼ種に共通する原理になっていて、ある一定の状況が与えられると、
ほぼ同様の行動結果に至る。
しかし、人はそれぞれが独自性を有している。
→「わたし」という装置 人それぞれ
(人は)さまざまな経験をし、いろいろな事態に遭遇しながら、その都度シナリオを描き直しながら
自分の人生を演じてゆく…しかしそのことは容易ではない。
さまざまに試行錯誤する過程で「妄想」が生成される
…
(新しい生き方への試行錯誤で柔軟な対応策が見つからないとき)
過去の生き方あるいはシナリオをいくらか手直しして用いる以外に方法はない。
このようなあがきにも似た苦闘の結果、獲得されるのが妄想
…
(「喪失感」と「攻撃性」という「問題解決不可能な相反する二つの思いに引き裂かれてい」ても)
あがきにも似た苦闘の結果、獲得されるのがもの盗られ妄想という「非現実」のかたちでなら、
この二つのこころを見事に、しかも同時に表現できる。
…
妄想を可能にしたもの
→責任は他に投影され、結果的に妄想という構造を獲得する…。
その方が自分が担わなければならない負荷が軽減されるから
⑱(最後に著者は〈痴呆のケア〉〈前提と基本視点〉ということで、とても大切なことを述べられる)
その-1 否応なく身体に絡めとられ、生き方が制限されるきびしさが徐々に増していくのが老いの常…
それをこころの持ちようひとつで乗り越えろ、と言うような傲慢さを私は持ち合わせていない。…
現実はこころ・からだ・生活世界のいずれかに生じたほんの小さなゆらぎが相互に原因となり
結果ともなって、こころ・からだ・生活世界総体を巻きこむ大きなゆらぎを結果する…
(「老い」という自然現象が、個人により「痴呆」、同じく「痴呆」とはいってもあらわれる症状は
さまざまだが、「廃用症候群」に陥ることは防がなければならない)
→できないことは要求せず、できるはずのことを奪わない、という関わりが必要
(そのために)現在の暮らしぶりを知り、彼らが生きてきた軌跡を折りにふれて語っていただける
ようなかかわりをつくりたい
…
その-2 面接者(介護者)は「患者の話を、あたかもストーリーを読むごとく、聞かねばならぬ」
(認知症者、痴呆者は)長い人生を歩んできて、「今・ここ」にいる。…ようやく彼らは存在感を
もちはじめる。
→過去を生き直す
→痴呆の症状とみえていたものはその人らしい表現だったのだ
→(その)ストーリーの真偽を問うよりも、ストーリーを作りあげる共同作業に意味がある」
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⑯ 「わたし」が壊れる
という感覚。わかるような気がした。
きっと、自分の「芯」というか「核」のようなものが覚束なくなった感じ
なのだろう。
物事を「認知」、理解することが難しくなり、「何かヘン?」とは感じるけれど
何がヘン、おかしいのかは分からない。
「分からない」「認知」できないから不安になり、おどおどする。
(つまり、「情動」が乱れる)
人は「情動」が乱れたままではたまらないので、何とかしようとあがく。
(それが「妄想」などの「周辺症状を生む源になる」)
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⑰ 「妄想」
「わたし」という装置 人それぞれ
「妄想」は、その生をまっとうする、生き抜くうえでの人間だけの「戦略」
のようなものかと思った。
(そういう意味では必要なものだろうか?)
でも「妄想」自体は一般的であっても「わたし」という装置は「人それぞれ」で
人により異なり、また異なる生き方をしてきたので、そのあらわれかたは違う。
つまり、それぞれの「妄想」の違いは、その認知症者、痴呆者の人生の
「あがきにも似た苦闘の結果、獲得され」たものと考えれば、
たとえそれが「もの盗られ妄想」のように「攻撃性」の強いものでも理解できる。
(「妄想を可能にしたもの」は、「《自分の》責任は他に投影され、結果的に妄想という構造を
獲得する…」「その方が自分が担わなければならない負荷が軽減されるから」)
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⑱ 「できないことは要求せず、できるはずのことを奪わない」
「痴呆の症状とみえていたものはその人らしい表現」
がとても強く心に響いた。
日盛りに 蝶のふれ合ふ 音すなり 松瀬青々