「足の裏など自分の身体を、他人からくすぐられたらこそばくてたまらないのに
自分でやったらマシなのはどうしてか?」
ありふれた不思議なことは身近にいっぱいだ。
(ただ、子どものころ感じた「不思議」の多くは、忘れている。
不思議なことを忘れず、探求するような利発な子どもだったら科学者になっていたかもしれない)
子どものころの完全に忘れていた疑問がよみがえり、解けて納得したばかり
でなく、皮膚についていろいろなことを知り、読んでホントによかった。
『皮膚感覚と人間の心』 傳田光洋
「皮膚」は肉体、身体そのもの。
詳しくいえば身体の表面なのだが、目に見えるのである空間を占め、
「ここは自分の場所だぞ」と自己主張しているかのようだ。
触覚(皮膚がもつ能力)
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すべての生きものは、皮膚そのもので成り立ち、自分という「姿」「形」として
存在し、他者(他人)にアピールしている。
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無自覚ながらも、皮膚は自分自身なので何かは感じていた。
(誰でも《自分だけだろうか?》気になるところがなくてもたまに、恥ずかしくても鏡で身体を眺め
自分は「今ここにいる」、どこかをつねって痛いと感じて安心する。
そうして生の感覚を確かめるのだ)
傷をし、またそこが膿んで傷口が開き大きくなっても、知らないうちに
治っている。瘡蓋(カサブタ。これは皮膚の「自然治癒力」の一つ)の偉大さに驚く。
(初めに私がすごく感じることがあって付箋を貼った部分を引用します。
感想、言及は、引用のうち「第7章 自己を生み出す皮膚感覚」を中心に書きます)
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【引用】
「第1章 皮膚感覚は人間の心にどんな影響を及ぼすか
もし、あなたが初対面の人に好印象を持ってもらいたいと考えたならば、
熱いコーヒーかお茶をまず手渡すと効果があるかもしれません。
→(それだけ皮膚が感じる感覚、味覚、触覚はたいせつだということ)
〈なぜ、皮膚感覚は人間の心や身体に大きな影響を及ぼすのか〉
(ところが)人類は言語を獲得し、さらには文字を発明して、私たちは皮膚感覚の存在を
忘れてしまっている…
しかし、皮膚への刺激は、私たちの心や生理状態に少なからぬ影響を及ぼしている…
第2章 人間の皮膚ができるまで
〈人間はなぜ体毛を失ったか〉
毛がない人間、水の中を生きるカワウソやビーバー、泥にまみれるモグラが…スクアレンを皮膚に
塗りつけているのは、環境に適応するためだといえるのかもしれません。…
(鳥などの)羽毛は空を飛ぶためではなく、まずは保温や防御のため役立っていたらしい…
(人間の頭髪の必要なわけ)直立すると頭が直射日光を浴びる…それを防ぐために頭髪は必要…
さらに脳は熱に弱いので、汗をかいて身体を冷却するという方法を獲得したというのです。…
チンパンジーやボノボの地肌が何色かご存知でしょうか。白いのです。
→(毛におおわれているので黒や焦げ茶色などになる)
アフリカに現れた最初の人類には、メラニン細胞によるメラニン色素の合成も必須であったに
違いありません。なぜなら体毛が無くなれば直接紫外線を浴びることになります。
メラニン色素によって肌を黒くすれば紫外線を防御できるからです。…
(なぜ人の人の肌は黒、白、黄などバラエティーに富んでいるのか?)メラニンによる紫外線の防御と
ビタミンDを合成するのに必要な紫外線量のバランスを地域によって変化させる必要…
〈皮膚の進化〉→手
現生人類でも、触覚の解像度が高いのは手の指先と唇です。
器用に使える手を持つことによって初めて、様々な触覚情報を得ることができます。
人類の祖先は、まず物を丁寧に摑み、触ることができる手を持ち、その後、その手を使いながら
脳機能を向上させていったと考えられます。…
それら脳の大きさを決める遺伝子の出現に先立って、まず人間特有の皮膚、
そして優れた触覚装置である器用な手が形成されたのです。…
第3章 皮膚の防御機能
〈自律的防御装置としての角層〉
表皮は、自らのバリアの状態をモニターしながら、ダメージを受けた場合にはその修復を行ない、
それが元に復せばその急ぎの操作を通常のレベルに戻すのです。
バリア回復の日内変動
ちょうど夕食から入浴ぐらいの時間帯でしょうか。
ということは入浴時、あまりゴシゴシと皮膚を洗い過ぎない方が良いかもしれません。…
第4章 表皮機能の破綻とその対策
第5章 皮膚の感覚について
第6章 皮膚が身体に発信するメッセージ
第7章 自己を生み出す皮膚感覚
〈自己を生み出す皮膚感覚〉
皮膚感覚は身体感覚と共同して自己と他者を区別します。
皮膚感覚は、私と環境、私と他者、私と世界を区別する役目を担っているのです。…
くすぐったい、という感覚が生じるためには、それが他者によってなされた行為であるという意識が
必要です。…
誰がくれても砂糖は甘く、塩はからい。視覚、聴覚、味覚に比べると、嗅覚はやや意識の影響を受ける
→(臭さは同じでも、自分と他人の排泄物《ウンコ》に対する意識は違う)…
一方、皮膚感覚は意識の影響をさらに強く受けます。…
意識は脳という臓器だけでは生まれません。
身体のあちこちからもたらされる情報と脳との相互作用の中で生まれるのです。
とりわけ皮膚感覚は意識を作り出す重要な因子であるといえるでしょう。…
自分の身体が現在ある位置に存在する、と正しく認識するためには、右脳の側頭―頭頂接合部が
重要な役割を果たしているようです。…そこが刺激を受けると、やはり体外離脱を体験することになる
ようです。
→(皮膚感覚は自他を区別し、自己の空間的位置を認識)
〈社会システムと感覚〉
現代の「先進的」社会ほど、記号化された視覚的情報に重きを置いたシステムを有している…
視覚、聴覚の伝達技術が、嗅覚や味覚、皮膚感覚に比べて著しく発展したのは、光と音が物理的には
いずれも波動であり、電気信号に変換しやすかったのも理由の一つでしょう。
嗅覚や味覚においては、何らかの物質、分子が必要ですが、
現在の科学技術は物質の情報を電気信号に変換する直接的な方法を持ちません。…
まして個々の人間の意識と密接につながっている皮膚感覚については、それを他者と共有する試みさえ、
ほとんど行われませんでした。…
現代の先進的な科学技術を享受できる環境に生きる人々にとって、視覚情報と聴覚情報が生活の上で
重要な情報となり、時にはそれらだけが、個々の意識の決定を左右するようにもなるのです。
しかし、皮膚感覚は、私たちを強く揺さぶります。五感がもたらす様々な刺激のうち、
皮膚感覚ほど個々の快・不快を惹起するものはないでしょう。
→(性的な歓び、痛さ)
第8章 彩られる皮膚
〈メイクアップすることの心理的効果〉
〈化粧による高齢者の生活改善〉
〈メイクアップの人類史〉
どうやら人間は世界各地で象徴的な意味を持つ身体装飾を行っているようです。…
サバンナで体毛を失った私たちの祖先は…自分の身体と世界との境界である皮膚に不安を感じていた
のかもしれません。はじめは激しい日差しを避けるためだったのかもしれませんが、
土や泥を身体に塗ることを覚えたのでしょう。
第9章 新しい皮膚のサイエンス」
(注:「」〈〉→(黒字)、太字太字はこちらでしました)
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「皮膚感覚は身体感覚と共同して自己と他者を区別」
「皮膚感覚は、私と環境、私と他者、私と世界を区別」
人は誰でも「私は私」と思っている。
つまり、自分は自分であり他の人間ではないという意識。
その意識、自覚があるから、他人が私をくすぐっていることがわかっている。
それで、くすぐったく感じるのだ。
「視覚、聴覚、味覚に比べると、嗅覚はやや意識の影響を受ける」
それでウンコは自分のものも他人のものも同じだが、そのウンコが自分のものと
わかっていれば、ちょっと「親近感」をもてるし、他人のものとわかれば、
ちょっとでも「嫌だなぁ」と思うのか。
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第7章
私にとくに印象的だったのは、〈社会システムと感覚〉だった。
「視覚、聴覚の伝達技術が、嗅覚や味覚、皮膚感覚に比べて著しく発展したのは
光と音が物理的にはいずれも波動であり、電気信号に変換しやすかった」
という部分。
先端技術の結晶のようなモノは、スマホや家電などの道具であれ、車や電車などの
機械であれ、数々のインフラ設備であれ、地球のみならず宇宙まで(エネルギー源は
何であれ)みんな電気となって働いている。
(生きもの自身の生命活動が電気信号により機能していることは、
テレビ科学番組での脳や全身の最新のコンピュータ解析画像でおなじみ)
嗅覚や触覚で情報を得る、認識・理解し判断するということは、
現代の人間社会ではまずはない。
(花の匂い、カメムシ、香水、男くさい…いろいろあれど、人間の生存に欠かせぬほどには
重要ではない。
けれども、花の匂い、カメムシの臭いなど、自然にとっては必要不可欠で、香水、男くさいなど
どうでもいいものとはまったく違う。
花にとっては受粉のために虫を惹きよせるため、カメムシにとってはわが身を守るために
絶対に必要なのだ)
その後に続く、
「嗅覚や味覚においては、何らかの物質、分子が必要ですが、
現在の科学技術は物質の情報を電気信号に変換する直接的な方法を持ちません」
「まして個々の人間の意識と密接につながっている皮膚感覚については、
それを他者と共有する試みさえ、ほとんど行われませんでした」
「現代の先進的な科学技術を享受できる環境に生きる人々にとって、
視覚情報と聴覚情報が生活の上で重要な情報となり、
時にはそれらだけが、個々の意識の決定を左右するようにもなるのです」
には深くうなずいた。
(「生活の上で重要」というわけではないけれど、散歩でまだ知らない花を見つけたとき、
スマホにはその花にかざすだけで名前のわかるアプリが入っている。
いまはまだ「かざす」=「視覚情報を得る」だけだが、そのうち臭いの分子や成分を嗅ぎわけてくれる
ようになるかも)
人と人、人とモノの関係を問わず、「直接」「生のまま」「身体感覚」が
軽視され、ほとんどすべての物事が、現代の「デジタル化(コンピュータ化)」、
「バーチャル化」(AI技術、人工知能はなんでも数値のデータとして入力される《そのうち
人の感情までも》)されてゆく。
いまやその「バーチャル化」の仕事版とでもいえそうな「テレワーク」(そういう
働き方をできる企業・事業所がどれだけあるのだろう?)という働き方がコロナ以降
登場してきた。
引用のとおり、確かにコンピュータという電子機械は視る・聞くで成り立ち、
それだけで完結している。
そこにコンピュータの臭いとか手触りは問題にされることはない。
(ときどきブログでもかわいい女の子のアニメ画像が出る。否応なく《つまり逃げようもなく》
見せつける。女の子はこれ見よがしに胸を露出…と妄想をかきたてる。
視覚はバーチャルですむけれど、触る、触覚はバーチャルではすまない。
いい歳をした男性がセクハラ犯罪に走り、築きあげた人生のだいじなものを一瞬に失う、棒に振るのを
ニュースで聞くとやり切れなくなる《当事者にとっては自業自得でも、ご家族はたまらない》。
この前、駅前を歩いていたら、前を行く20代くらいの娘さんが、オシャレとはいえウェストの一部を
露出している《もちろん目が悪くてもすぐに目についた》。男の性を煽っていると感じないのだろうか。
今ではおばあさんとはいえツレも強く感じたらしい)
正にその通りだと思う。
「現代の先進的な科学技術を享受できる環境に生きる人々にとって、
視覚情報と聴覚情報が生活の上で重要な情報となり、
時にはそれらだけが、個々の意識の決定を左右するようにもなるのです」