山極寿一さんは人類学、生物学の学者です。
(サルやチンパンジー、ゴリラなどヒトの仲間の生態を自然、フィールドの中で観察・調査し、
それに基づく比較などの研究を通じてヒト、「人間」の特性を明らかにされる)
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「・人間は大勢で子育てをしていた
(いちばん大切なことは)「食」と「繁殖」
(つまり、自分の生存とヒトという種の存続。この二つの問題解決のために→)「雑食」と「多産」
そして、「共食」と「共同保育」が家族の出発点となった
(そのことが他者への「共感力」となった)
「家族」と「共同体」をもつのは人間だけ
…
「家族」と「共同体」の拮抗関係を解消するため…性を家族の中に閉じ込めた
…
(「共感力」は)文化以前のもの、言葉が生まれるずっと前から、人間に備わっていた能力
だと思います。
(はじめは言葉ではなく)音声を使ったコミュニケーションとして…広がっていった。
一緒に踊ったり、歌ったりすることが、人間の共感力を高めた
…
現代社会ではそういった人間の共感力が衰え、個人が集団から後退しつつあるように見えます。
・サルの社会では強い者だけが勝つ
(サルの社会は)誰もが自分の利益を優先する勝ち負けだけの社会ともいえます。
ところがゴリラなど類人猿となると、「答えを先送りする」という知恵をもっている
(現代の人間社会は)サルの社会に近づいている。
…
人工装置としての社会が整ったことで、信頼を絆とした家族や共同体が弱まるのは当然…
・加速する「個人化」にあらがうもの
(現代は家族などに代わって)強くなっているのが個人
社会システムの効率化を求めれば、ルールを強化せざるをえない…
ルールが精緻になるほど、人間の感性は鈍くなる。
…
世界は決して自分のためだけにできているのではないことに気づいてほしい(他者への共感)」
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私はチンパンジーは他より少しだけ賢いくらいは知っていても、チンパンジーも
サルもゴリラもだいたい同じようなヒトの仲間だと思っていた。
だから、動物園に行ったとき意識して区別した目で見たことはなかった。
著者はゴリラ研究の第一人者。
(山極さんがなんでゴリラにのめり込んだのかは知らないが興味津々。それはともかく)
ゴリラの生態、彼らの社会をつぶさに観察、調査、研究された結果は引用の通り。
私は、「社会システムの効率化を求めれば、ルールを強化せざるをえない…
ルールが精緻になるほど、人間の感性は鈍くなる」という終わりの言葉が強く胸に
こたえた。
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一種の生き物でしかない「ヒト」が「人間」となっていったという進化、歴史は、
本能という自然に任せておけば(環境に大きな変化がない限り、ある意味)自動的に
個体として生きられ、子孫も残せられる他の生き物たちと違い、人間だけが適切に
本能をコントロールする愛や知性のようないわゆる「人間らしさ」がつくり出した
ものだろう。
いつの時代、どこでもいわれ、叫ばれた「愛」は、言い換えれば「共感」のことだ
と思う。
「進歩」=「効率化」といえなくもない。
社会が進歩するにしたがって「ルールを強化せざるをえな」くなった。
そして、「人間の感性は鈍くな」らざるを得なかった。
(どんどん鈍くなった先が気になった)
今日の一句
淡雪や かりそめにさす 女傘 日野草城