あまり小説を読まないが、愛読ブログの方の読書感想記事に惹かれて
『彼女が言わなかったすべてのこと』(桜庭一樹)を読んだ。
病気とは切り離せないが、主題は闘病物語ではないので悲しい話ではなかった。
がんという事実を忘れてしまうような、兄、親友など身近で親しい人たちとの
楽しい交流が展開されてゆく。
(詳しい話はネットで分かりますので興味のある方は検索してください。
ここでは、本文、言葉から私の胸に響いたところだけを紹介し、そのことについて思う、考えることを
3回に分けて書きます)
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① 「誰かに声が伝わるのは、誰かの声が届くのは、そのときそのときだけの奇跡で、
それがずっと続くわけじゃなかったんだ」
…
② 「いろんな問題、苦しみがこの世には無数にある。問題ごとのパラレルワールド
(「パラレルワールド」とは、あるネットによれば「現実の世界とは異なる、複数存在する
とされる仮想的な世界のこと」 この概念は、異なる選択や出来事が起こった場合に
形成されると考えられる「もしも」の世界)がたくさん広がっていて、お互いバブルの中に
いるから、他の人の姿が見えない」
…
③ 「受け入れた病と溶けあい、絡みあい、ありきたりな日常としてただどこまでも続いていく。
もう一つのパラレルワールド的な、こう、別の世界も重なってたのかなって気がする。
そっちでは、みんな恋愛の話もよくしていて、いろんな恋愛も生まれ続けていて。
ただわたしにだけ見えてなかったのかなぁって」
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①
「誰かに声が伝わ」り、「誰かの声が届く」、つまり誰かと何かが「通じ合った」
と思ったとき、たとえそれが自分だけの思い込み、誤解、幻想だとしても、
それが「ずっと続くわけ」のものではなくとも、
自分には納得できる、信じられる、「そのときそのときだけの奇跡」だったのだ。
それで「いいのダ!」。
人生はいろいろな物語として語ることができる。
ある意味、人生は「自分だけの思い込み、誤解、幻想」の上に成り立っている
ともいえるかもしれないが、現実を「そのときそのときだけの奇跡」と感じられる
ことはすばらしいと思う。
(「一期一会」。どんなこともずっと続かない、変わらないことはない。
その時その場かぎりの出来事を「奇跡」だと感じたい)
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②
「彼女」は客観的な事実として乳がんだから、そういう表面的な事実だけは
他人にも分かる。
だけど内面までは、「お互いバブルの中にいるから、他の人の姿が見えない」。
人は誰でもが主観的には、「パラレルワールド」を生きているともいえる。
(本には「問題ごとのパラレルワールドがたくさん広がって」とあるけれど、特定の問題があろうと
なかろうと、私は人はそれぞれのバブル《「パラレルワールド」》の中で生きていると思った)
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③
「受け入れた病と溶けあい、…ありきたりな日常として」の現実の世界、
実際のワールドが「もう一つのパラレルワールド」として「重なってたのかな」…
「そっちでは、みんな恋愛の話もよくしていて、…
ただわたしにだけ見えてなかったのかなぁって」
切ないなぁ
今日の一句
母を見に ちょっと生まれし 二月かな 松葉久美子