『言葉が立ち上がる時』の最後は、『夜と霧』のフランクルの言葉です。
(『夜と霧』はフランクルがユダヤ人であるからということでナチスの
強制収容所に「収容」されていたときの体験に基づく本)
(グーグル画像より)
著者はフランクルの言葉を引用します。
【引用の引用】
「ここで必要なのは生命の意味についての問いの観点変更なのである。
すなわち人生から何をわれわれはまだ期待できるかが問題なのではなくて、
むしろ人生が何をわれわれから期待しているかが問題なのである。…
われわれが人生の意味を問うのではなくて、
われわれ自身が問われた者として体験されるのである」
(注:赤太字はこちらでしました)
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若いときにもフランクルを読んだことがあったが、「絶滅収容所」の衝撃、
それを生みだした社会への憤怒が「人生」や「精神」を圧倒し、この言葉があった
ことにはまったく気づかなかった。
この言葉は、「人生」そのものが主体で「主体」で
あるはずの人間(が「客体」のように(「従」のように)
扱われている気がした。
あまりに過酷な環境におかれ、あまりに非力・無力な自分を自覚させられた
フランクルの至った境地なのだろう。
もちろん、「自分の人生」というのは他でもない
自分にとっての人生なのだから、主客は一致、別々に
扱われるはずはないのだが、
フランクルは、「人生」の側に「君は恥ずかしいと
思われない生き方をしているか?」と問うている
ような気がした。
「人生」は自分が主体となり、切りひらいてゆくもの
かもしれないが、同時に、どうにもならぬものがあり
ある意味ではそっちが「主体」なのかもしれない。
それでもあきらめず、そういうことを覚悟して
生きぬくことの人間としての尊さのようなものを
感じる。
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フランクルの言葉を思っていると私は、仏の教え、「ぐずぐず」、「ネガティブ・
ケイパビリティ」の三つが連想された。
①仏の教え
障害者になったとき、その事実をど受けとめこれからどう生きていくかと迷った。
そのとき仏像と、葬式と、実家の宗派くらいしか浮かばなかった仏教に目ざめた、
気がした。
一般向けの禅語の本や仏教のやさしい解説書を読み、単純なのか、私には「そうだ
そうだ」とうなずくことが多かった。
仏教といってもいろいろだが、禅の心、釈迦がどう言ったかという原始仏教に
惹かれた。
釈迦は言っている。
いのちは「生まれた」ものであり、
「生きることは思うようにはならない」
「生きることは苦である」と。
(いのち《生》は与えられたもの、受け身にとらえられている)
だれしも望んで、好きで生まれたのではない。
生まれてしまったのである。
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②「ぐずぐず」
前回の記事、鷲田清一さんが言う「ぐずぐずの権利」を再掲。
「人間としての基礎にかかわることがらは、すぐには答えの出ぬものが多い。
人間にはついに答えられないもの、あるいは答えが出ぬままそれを問いつづける
ことに意味のあるものも少なからずある。…
ぐずぐずしながらも、逡巡の果てにやがてある決断にたどり着く、
いやたどり着くことをいやでも強いられる。
その時間を削ぐことだけはしてはならないとおもう。
その時間こそ人生そのものなのだろうから。」
たいせつだと信ずること、気になることは、いまはわからなくても
いつか答えにたどり着くかもしれない(結局わからずじまいで終わる
かもしれないけれど)いつまでもぐずぐず…していていい。
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③ 「ネガティブ・ケイパビリティ」
どうにも答えはわからない、どうにも対処のしようのない事態、場面が人生には
ある(そういうとき自分のできるのはただ耐えることしかない)。
わからないことがあると落ち着かない、不安なので、わかったことにしておく
という態度をとろうとする(いつまでも「ぐずぐず…」しているとカッコ悪い、
ダサいとされがち)。
ネガティブ・ケイパビリティはぐずぐずしておられる(続けられる)力
といってもいいと思う。
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仏教、ぐずぐず、ネガティブ・ケイパビリティがフランクルの言葉に直接は
つながらないけれど、私の中では結ばれる。
たどり着いた境地の何万分の一でも感じとりたい。
〈オマケ〉
柳田さんは河原理子・著『フランクル「夜と霧」への旅』という本を紹介されて
いたので、こっちも読んだ。
ますます私は自分がフランクルのことをわかっていないことがわかった。
【引用】フランクルの言葉
「人間にはただ「品性のある人種と品性のない人種」のふたつがあるだけで、
品性のある人は少数だったし、これからも少数派にとどまるだろう、
そして政治体制がならず者を押し上げて権力の座につければ、
どんな国でもホロコーストを起こしうる。…」)
河原理子・著『フランクル「夜と霧」への旅』は、フランクルの言葉がとても胸に
響いたので別に書きたい。