最後③は「人工知能民主主義」という話です。
「人工知能民主主義」とは初めて聞いた。
驚いた。そして「おもしろい」と思った。
(人類史を総体として見れば、ほんのわずかにしてもみんなが幸せに生きられる方向に進んでいる
と思うけど、ボタン一つで核戦争を始め《ほかのあらゆる生きものを巻きこんで》死に絶える、
生存の持続自体が危ぶまれる時代に突入している。
世界は、地球は昔よりずっとグローバルになっている。
いまだに戦争を克服していない人類のこと。
三度目の世界大戦が起きても何の不思議もない。
《戦争は最大の不幸せ》
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民主主義の尊重で戦争がなくなるのだろうか?
果たして人工知能、AIによって民主主義が実現するのか?
民主主義が実現すれば戦争がなくなるのだろうか?
「多数決」は民主主義の重要な原理であり、得票数の多少で勝敗を決する「勝ち負けゲーム」。
情報・デジタルの現代では《事実、フェイクを問わず》SNSを上手に操る者が勝ちやすくなり、
海の向こうのトランプの話だけでなく、日本でも都知事選では「石丸現象」が起きたというし、
この前は兵庫県知事選で前知事が当選した。
《ドイツでは昔、いちばん民主的なワイマール憲法のもと民主的な選挙でヒトラーは選ばれた。
そのヒトラーは民主的に選ばれた、自分は民意を代表としているのだから「何が悪い」とばかり
好き勝手をやらかした。
「自由と民主主義」というけれど、「自由」は「民主主義」のなかに含まれており、
「民主主義」=多数決と信じている限り、多数決という「民主主義」により
「自由」は簡単に消え失せる。
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「人工知能民主主義」は、「多数決」に代わる何かを教えてくれるのだろうか?
本は大きく二つのことが述べられていました。
①と②に分けて紹介し、感想を書きます。
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① 「〈人工知能民主主義の誕生〉
カーツワイルにしろ落合にしろハラリにしろ、コンピュータを利用することで
人間ひとりひとりが賢くなるなどとは主張していなかった…
彼らはあくまでも、人類社会の全体が、人工知能の助けを借りることで、
いわば「群れ」として賢くなる可能性について考えていた。
(カーツワイルの「シンギュラリティの到来」という話、ハラリの「人間は神になる」という話、
落合陽一の言っている話の真意を著者はいう)
…
初期のネットサーフィンの開発者や利用者には、リバタリアニズムと呼ばれる強い自由主義の
支持者が多かった。…
(けれども、いまはかつてはSNSが「アラブの春」を引き起こしたような民主主義の強化、
人を幸せにする以上に害悪なものに堕ちている)
人々はいまや、人間はあまりに愚かなので、まともに議論させるためには人工知能による
たえざる監視が不可欠だと信じ始めているようにみえる。…
→(「人工知能民主主義」が必要とされている)
…
すなわち人間は関与せず管理権限ももたないが、人民の「ため」にはなってくれる政治。…
(「人文系の思想として現れたのではなく、理工系のシンギュラリティの夢と深く結びついて
現れた」と著者はいう)
人間にはたいして能力がないので、人間の限界を超えることなどできない…
くだらない問題で悩み続け、文句をいい続ける。
(ではあるが「文句をいい続ける」ことこそ「それこそ民主主義の前提」だと著者は力説)」
② 「(次に著者は有名なルソーの「一般意志」について考える)
ルソーは、統治は一般意志に導かれるべきだと主張した。
その一般意志なるものは、(現代では)集合的無意識や統計法則のことだと解釈できる。…
人工知能民主主義は、まさにそのような訂正可能性なしの一般意志から生まれ出た思想…
一般意志は機械(コンピュータ)でしか把握できない。…
(アルゴリズムや人工知能がどれほど完璧なものになっても)そんなことには関係なく、…
アルゴリズムやら人工知能やらの選択に難癖ををつけ、制度の新解釈を並べ、「訂正」を迫り、
一般意志そのものを再定義しようと試みる人々は必ず現れるだろう。
それが人間社会というもの…
人工知能民主主義は、人間のすべてのコミュニケーションが訂正可能性に満ちた不安定なゲーム
であることを忘れた、本質的に非人間的な構想…」
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①
「人類社会の全体が、人工知能の助けを借りることで、いわば「群れ」として
賢くなる…」
「人々はいまや、人間はあまりに愚かなので、まともに議論させるためには
人工知能によるたえざる監視が不可欠…」
「人間は関与せず管理権限ももたないが、人民の「ため」にはなってくれる政治…」
「人間にはたいして能力がないので、人間の限界を超えることなどできない…」
「くだらない問題で悩み続け、文句をいい続ける。…
「文句をいい続ける」…「それこそ民主主義の前提」…」
引用は人間には身も蓋もないような話だけど、「人工知能の助けを借りることで、
いわば「群れ」として賢くなる…」
「人間にはたいして能力がない」とは思わないが、「人間はあまりに愚かなので、…
(監視カメラが身のまわりに溢れかえっている)人工知能によるたえざる監視が不可欠」。
その監視カメラの設置・運用など「人工知能民主主義」実現のための具体的政策、
措置は多数にわたるけれど、「人間は関与せず管理権限ももたない」が、
「人民の「ため」にはなってくれる…」という。
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そこには「自由」がない。
何が「人民の「ため」」なのかを、主体者である人民が自由に選択できない。
「民主主義」が「自由」を潰す。
最後、著者は「くだらない問題で悩み続け、文句をいい続ける。…
「文句をいい続ける」…「それこそ民主主義の前提」…」だという。
ウジウジと「悩み続け、文句をいい続ける」姿は自分のようで、とても強く共感した
「民主主義の前提」には出来るだけ、可能な限りの多種多様な話し合い、
対話がなされなければならない。
そうでないと「民主主義」は保障されない。
AI、人工知能が利用されるのはすばらしいけれど、話し合いや対話というものの
アナログを思うと、デジタルの人工知能とは相性が悪く、残念ながら「民主主義」に
つながらない。
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②
ルソーの「一般意志」。
(「一般意志」。哲学の専門家、研究者でないのでよくはわからない。けれど何となくはわかる。
「社会のあるべき意志《ああしたい、こうあったらいい理想》」のようなものだと思われる)
「一般意志」は、現代では客観的なさまざまなデータをコンピュータに入力し、
「人工知能民主主義」の最適解として求められるかもしれないが、
民主主義は人間のすることなので、それが最適解かどうかわからない。
「(アルゴリズムや人工知能がどれほど完璧なものになっても)そんなことには関係なく、
アルゴリズムやら人工知能やらの選択に難癖ををつけ、制度の新解釈を並べ、
「訂正」を迫り、一般意志そのものを再定義しようと試みる人々は必ず現れる」
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「人工知能民主主義」が戦争を最適解に出すとは思わないが、
いつまでたっても戦争をなくせない人間に、「人工知能民主主義」は
そもそも戦争が成り立たないような人類破滅的な戦争を最適解にするかもしれない、
と思った。
金剛の ひとつぶの露 石の上 川端茅舎