カメキチの目

2006年7月10日が運命の分かれ道、障害者に、同時に胃ガンで胃全摘出、なおかつしぶとく生きています

2024.7.30 南木佳士(前)

佐野洋子さんの生まれ育った家と真反対で、わが家には本はなかった。

(学校の図書室にはあったはずだが、遊びしか頭になく目に入らなかった。

み物といえば教科書とたまに買ってもらった少年雑誌

長じて、社会の不合理、矛盾が目についてならず、そういう関係の本ばかり。

(物語など小説は指で数えられるくらい)

 

仕事をやめ、時間ができ、小説やエッセイも読むようになった。

(あまりに多く選択に迷う。たまたまの出会い、ウンに任せている)

 

そんな私でも若いときに知り、いつかは読みたいと思っていたものがあった。

南木佳士 『ダイヤモンドダスト


最近やっと読んだ。

強く感じ考えさせられたことだけ(前・後と2回)書きます。

 

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(入院中の癌患者の言葉)

「検査の技術が進歩して、癌患者の予後が正確に分かるのに、治療が追いついていない。

このアンバランスはきっと、星のアレンジをしている人が、自分勝手に死さえも制御できると

思いあがった人間たちに課している試練なのだと思います」」

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南木佳士さんは昔も現在も、自分の身に無理がかからないよう医師の仕事をこなし

小説、エッセイを書いている。

(プロフィールはネット検索ですぐ分かりますが)著者への印象は、ともかく誠実誠実…

それに尽きる。

どの作品からも(『ダイヤモンド…』より先に他の作品を多く読んでいた)有能な医師、

人気作家であるより前に、一人ひとりの患者、読者に誠実に向かおうとされる姿を

痛いほど感じる。

 

『ダイヤモンド…』の初版は1989年に発行されたので、現在の医療技術は検査だけ

でなく、治療も格段に進んでいるに違いない。

しかし、医療技術の目をみはる進歩があっても、検査と治療のアンバランス

状態は、現在も変わっていない。

精密な査でここが悪いとわかっても、治療が追いついていない」。

問題の原因がわかっても解決のしかたがわからないのだ。

 

星のアレンジをしている人」というのは「神さま」のような存在のこと。

 

病気の原因解明ができても、治療ができない。

その「アンバランス」は、神さまが「自分勝手に死さえも制御できると

思いあがった人間たちに課している試練」だと思うと、その癌患者は言う。

(「知れば知るほど不幸になる」というパラドックス

不幸かどうか、月は「見る」ものではなく「行く」ものとなった。

人間は知る、探索せずにはおれない。

科学技術への飽くなき信仰、追及は「人間の業」なのだろう)

 

    


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青春時代には「ヒューマニズム」という言葉を聞くと血がたぎったけれど、

それが歳とったから減ったというのではなく、いまは逆に白けた気分になる。

 

先日読んだ佐藤優さんの『現代の地政学』という本に、イスラム教の世界では

人間が人間社会を治めるのは不遜「自己統治」という発想は出てこない

と述べられていた。

それにまた、近代以降の「人権」思想、考え方について、

人間は全能だから、人間が人間を自己統治することもできるという考え方も

含まれていますとあり、唸らざるを得なかった。

(いまも唸っています)

 

 

 

 

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                          ちりとてちん

桶の茄子 ことごとく水 はじきけり  原 石鼎

 

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