根室行きは朝が早かった。
5時だいの一両ディーゼル一両だから列車とはいいませんね。広大な北海道は特急でもディーゼルがほとんど。札幌など大きい都市とその近郊は電車なのでしょう。に乗り、一路、根室をめざした。
ほんとうは「一路」にしたくなかった。途中の霧多布(キリタップ)湿原、厚岸(アッケシ)にも寄りたかった。
だけど、「一路」にしなければならなかった。というのは、この根室本線は広大な北海道ではほかの線路も似たようなところが多いです。本数がホントに少ない。
それだけではない。私は迅速に行動できない。なんでもたっぷり余裕をもたなければならない。
欲はなるべく控えるべきである。諺にもある。
「二兎を追うものは…」
あきらめた。
根室に着いてから、納沙布(ノサップ)岬にまで足をのばすか、街をウロウロするか、ツレは旅の予定を立てるとき、私に希望を聞いてくれていた。
納沙布岬まで行きたかったが、慎重な彼女が事前にネットで調べた情報では霧の可能性が高いとのこと。これもあきらめた。
「あきらめ」は「諦め」ばかりではない。「明らめ」でもある。人生もあきらめなければならないときだってあるのだ。あきらめは「敗北」ではない。なんて、たかが行けないところがあったくらいで「人生」とは(大げさ言ってすみません)。
ともかく朝の早い時間だったので釧路駅を発つときは通勤・通学の人もいなかった。だいぶして高校の生徒さんが乗り降りした。その高校生をちらっと見て、彼らの将来が気になった。勤め人は勤め先があまりないからでしょうか、ほとんどおられませんでした。
「根釧原野」とか「サロベツ原野」とか、子どものころ学校で教わった。私の育ったところが四方を山に囲まれた辺鄙な田舎だったので、海とか広大な陸地、原野に惹かれるようになったのかな。
窓に貼りついた私たち。
ヤモリじゃないけれど、ツレも貼りつくようになったのはたぶん私の影響だと思います。
障害で目が悪く、私はダメだったけど、あるところでツレはエゾシカを発見し、写真に撮った。おーぉスゴイ!
北海道の鉄道ではあちこちでよく現れるらしい。で、彼らが出そうなところでは「ブゥーブゥー」。警告汽笛が鳴らされる。鳴ったら(写したかったら)カメラを構えなければならない。そうはいっても現れるのが車窓の右か左か。それはウンというものでしょう。
途中の「浜中」は、漫画ルパン三世の作者モンキー・パンチさんの出身地だそうだ。駅舎に見事なルパンがあり、全国からファンが来るに違いない。
根室駅の前に「東根室」駅に停まった。「東根室駅は有人駅では日本最東端」の標識が見えた。
そして根室に着いた。
根室の駅は、「根室」の有名ぶりと駅舎の貧弱といって根室駅さん。ゴメン!の対照ぶりが私には強い印象を与えた。
駅前には、これ見よがしに納沙布岬行のバスが停まっていた。誰も乗る人はいない。どうぞ乗る人、観光客がいますように!やっぱり、私たちも納沙布まで行けばよかったか…
で、予定通り駅の近くを、ブラブラと歩く。ブラブラがとても楽しい。おもしろい。
歩くと、さまざまな野の花、庭の花、通りなどの樹木との出あいがある。ずっと前、青森に行ったとき(あとから岩手に行ったときもありましたが)、民家の塀や壁に「罪を犯した者は…」とか「キリスト…」と背景をまっ黒に塗った中に言葉だけが書かれたポスター(紙ではありません)というか「警告」に出会ってギクッとしましたが、ここ根室でそれに会おうとは思ってもみませんでした。が、「おもしろい」といえばおもしろいですよ。
発見がある。その街の空気、雰囲気が匂ってくる。それを嗅ぐことのなんと楽しく、おもしろいことか。目的もなく「行き当たりバッタリひとすじ」というわけではありません。
当初の目的は二つあった。一つは根室名物「エスカロップ」がどんなもんか、ご興味のある方はネット検索してみてください。を食すこと。もう一つは「甘太郎」を食すこと。
ブラブラ歩いていたら「エスカロップ」を食べられる店にぶつかった。もちろん入った。食べた。
食後、たいへん貴重な「経験」をした。
店のご主人がわざわざ冷蔵庫で飼っている珍しい生き物を見せてくださった。ガラス瓶に入った「クリオネ」である。ガラス瓶は冷えているのですぐに露で曇る。曇りでよくみえないのでしょっちゅうハンカチで拭いた。たしかにクリオネ。
ご主人に、「はるばる遠くからよーこそ」と思ってもらえたに違いなかった。
ああ!感謝感激。
作ろうとしてもできない思い出、買おうとしても買えないお土産クリオネそのものをもらったのではありませんをプレゼントされた。
「甘太郎」というのはたい焼きみたいなもので、地元のスーパーで手に入った。地元のスーパーに入るのも楽しい。サプライズがおもしろい。