「正義の味方が苦手」という書名に惹かれて読んだ。著者は古市研寿さん。
『正義の味方が苦手です』
(「グーグル画像」より)
「正義の味方」という言葉を聞くことはさすがに大人になってからはないけれど、
子どものころは『月光仮面』などのヒーローが自分を名乗る前にそう言った。
子どもは単純だから「正義」は心によく届いた。
「正義の味方」は正しい。「正義の敵」は必ず悪者で、子どもでも見ればすぐに
見分けがつく。
悪者は恐ろしい格好をし顔も怖いものに仕立てあげられていた。
人は大人になっていくにしたがい、現実世界には「正義」(=善)・「悪」と単純に
決めつけてはいけない複雑な物事があることを知っていく。
格好や顔で人を見てはいけないと学んでいった。
(しかし、単純な子どもでも、自分の欲望のために他人を欺く、ウソがいけないことはわかる。
裏金、悪徳商法、詐欺などは「複雑な物事」でも何でもなく「悪」だと判断できる。
しかし、『ねずみ小僧』や『雲切仁左衛門』、大事な人を理不尽に殺された人が復讐する、
かたき討ち《仇討ち》は「悪」だろうか?)
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『正義の味方が苦手です』
「正義」「正しい」とは、必ずある条件、前提があってのこと。
「正義」「正しい」ことは大切でも、自分が正しい(相手が間違っている)と思い込む
ことのないように気をつけたい、という著者の強い思いが感じられた。
(三つのことだけ触れます)
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①
「本当は線のつなげ方に無数のパターンがあるはずなのに、一度「オリオン」や「ふたご」だと
認識すると、そうとしか見えなくなる。…人が思い込みから逃れることは難しい。…
だからこそ大切なのは、いつでも偏見や予断を取り下げる準備をしておくこと」
②
「〈ファクトは感情に勝てない〉
他人を説得する時は、いくら事実(ファクト)を提示しても無意味に終わることが多い。
新しいデータを提供したところで、相手は自分の先入観を裏付ける情報なら即座に受け入れるが、
反対の証拠には冷ややかな目しか向けない(→「確証バイアス」)」
③
「〈失言よりも糾弾すべきことがあるはず〉
(ある国会議員が男女差別を肯定するかのような失言をした)
誰かの失言よりも、実際に存在する不平等を問題視するべきではないのか。…
誰かの失言を糾弾する手間をかけるなら、企業と政治にクォーター制を求めた方が建設的だ。」
①と②
人は「思い込み」「確証バイアス」に囚われやすく(それから)逃げるのは難しい。
特に自分の側に正義がある、自分が正しいと思うときはなおさら。
(「正義」は甘い蜜の味がする)
どんな人でも間違う。
(アインシュタインも間違えた。
が、その使用がどれほど酷いものかを知って、悔やみに悔やんだ。
ところが、世の中にはまた大統領になったトランプのような自分が間違えるはずはない、
「自信の権化」みたいな人物もいます。
彼の態度からは、政治には「正義」は不要といっているような気がしてならない。
《熱烈支持者有名人イーロン・マスクが支持者にくじでビックリするような大金を贈るという
選挙のゲームのように楽しませるというのも「自由」の国、アメリカでは許されていることを知り
またビックリした。やっぱりアメリカは「清濁併せ吞む」懐の深さがあるのかな。
《でも併せ吞みしたくない》)
初めは自分が正しいと思っても、後から自分の過ちに気づいたら、言い訳せず
素直に非を認め、「いつでも偏見や予断を取り下げる準備をしておくこと」。
「偏見や予断」の根は深い。
(感情の次元の問題になっている。人種差別など差別問題はみんなそう)
「ファクトは感情に勝てない」。
(しかし逆に、感情の根はファクト《事実、実態》にあるから差別社会に生きている私も
差別感情からは逃れられない。「偏見や予断」の根は深いことを自覚しておかなければならない)
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③
失言、口がすべったということは多くの人にあると思う。
(私にはあります。特にウチにいるときなどリラックスしているときは自分の感情丸出しできるので
「しまった!」「言い過ぎた」と後悔することが度々あります)
でも政治家など「公人」は「しまった!」では済まない。
(「私」の場でのことならせいぜい内輪の喧嘩で済むけれど、「公」ではそうはいかない。
「公人」は公私を使い分けなければならないので同情します《でもそれを覚悟でなるのでしょう》
これ以上失言をなくすためにも、)
「誰かの失言よりも、実際に存在する不平等を問題視するべきではないのか」
そのための具体策、「企業と政治にクォーター制を求め」るという発想は
すばらしい。
(「男女差別」の問題だけでなく、失言、うっかりミスの原因の根本を「ヒューマンエラー」で
片付けるのではなく、こんな問題だからこそAI・人工知能を活用して客観的な法制度的な対策を
講じていくべきだと思った)
いつのまに 橋をわたりし 秋の暮 京極杞陽